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札幌地方裁判所 昭和57年(わ)206号 判決

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

押収してあるカセットテープ二巻を没収する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、北海道余市郡余市町で生まれ、昭和三七年三月北海道立余市高等学校を卒業し、同年四月日本電信電話公社(以下「公社」と言う)職員となり函館電報電話局(以下「函館局」と言う)に配属され、昭和四九年一一月札幌データ電信施設所データ部第二データ通信課に配置換えとなり、その後同第三データ通信課に移り、いわゆる信用金庫コンピューターセンター(以下「北信協センター」と言う)においてセンター設備の保守や故障の修理などに携わったのち、昭和五四年三月函館局第二施設部宅内課第二宅内係長となり、データ通信宅内装置(以下「端末装置」とも言う)の保守及び建設の業務に従事し、昭和五六年三月前記札幌データ電信施設所施設部主任技術員となり、北海道電気通信局管内の端末装置に対する技術的支援業務に従事していたものであるが、

第一  函館局宅内課第二宅内係長として勤務していた際、データ通信の故障が所管外の通信回線に由来するのかそれとも被告人所管の端末装置に由来するのか判別できずに難渋した体験から、故障原因を視覚的に探索し得る簡易な測定器を開発できないものかと考えるとともに、かねてからいわゆるコンピューター犯罪に関心を抱き、コンピューターの操作に携わらない者がこれを行うとすれば、銀行などに設置されている現金自動支払機(以下「CD」と言う)を狙うのではないかと推測し、CDを利用したコンピューター犯罪の可能性を究明してその防止策を研究してみたいとも考え、以上の二つの目的に利用する意図の下に、公社の取扱中にかかるデータ通信回線からその交信中のデータ通信音(以下「生データ」と言う)をカセットテープに録音した上これを解読しようと企て、昭和五五年一二月三日午前九時三〇分ころから午後一時ころまでの間、函館市東雲町一四番八号函館局一階の第二施設部局内保全課試験室において、回線収容装置(以下「MDF」と言う)の中の株式会社北海道銀行(以下「道銀」と言う)木古内支店及び同亀田支店が共同使用するCDオンライン通信回線に係るVT―二号切替端子板のジャック盤に、所携のカセットテープレコーダーを接続し、道銀オンラインコンピューターセンターから右通信回線を通じて道銀亀田支店に設置されているCDに伝送される後藤基則、池田正十三、番精二らの氏名、口座番号及び銀行コード等を内容とする電気通信である交流信号音をカセットテープに録音し、その後、昭和五六年三月、前記札幌データ電信施設所施設部主任技術員となって職場が変わり、仕事も忙しく、苦労して研究開発しても経済的見返りを期待できないことなどから次第に先の故障原因探索のための測定器を開発するという意欲はなくなり、そのころから人事異動や待遇面での不満も重なって公社における仕事に疑問や不安を抱くようになっていたところ、同年秋ころ、銀行職員によるコンピューター犯罪が報道されたことや、アメリカにおいてはコンピューター犯罪防止策を懸賞募集している銀行があるとの記事を雑誌で読んだことなどに触発され、コンピューター犯罪の防止策を考案して銀行にもちかければ多額の報奨金が得られるのではないか、その際CDカードを偽造し、これで現実に預金を引き出せることを示せば銀行も真剣に被告人のアイデアに耳を傾けるであろうと考え、そのため前記カセットテープに収録された道銀亀田支店のCDに係るデータ通信の信号音を再生解読しようと決意し、同年一一月下旬ころから、札幌市北区新琴似三条六丁目五番一三号の当時の被告人方居宅において、予め函館局時代に集めておいた機械に改良を加え、同年一二月下旬ころ、磁気カードの磁気ストライプを読み取る機械を完成させた上、昭和五七年一月四日、札幌中央区大通西一四丁目七番地札幌第二電電ビル二階北海道電気通信局札幌都市管理部札幌データ電信施設所施設部第二宅内課調整室において、同室に備え付けてあるDT―七A形Aデータ宅内試験装置などを利用して、前記カセットテープに収録されている交流信号音のうちから後藤基則に係るデータを再生し、右試験装置の表示装置部にその内容である氏名、口座番号、銀行コードなどを文字、数字及び記号によって表示させ、これを筆記して解読し、更に同月一三日ころ、同所において、同様の方法により、前記カセットテープに収録されている交流信号音から池田正十三、番精二らのデータを解読し、もって、公社の取扱中に係る通信の秘密を侵し

第二  右の解読した情報をもとにCDカードを作成し、これで銀行のCDから金員を窃取しようと企て、同月一四日ころ、前記第二宅内課調整室において、所携のアコム株式会社発行の磁気カードに前記DT―七A形Aデータ宅内試験装置などを使用して道銀亀田支店に普通預金口座を開設している前記池田正十三の口座番号等を印磁した上、同月一六日午前一〇時四五分ころ、札幌市西区二十四軒一条七丁目一二株式会社みちのく銀行札幌西支店において、同所に設置されている同支店支店長加賀谷義雄管理にかかるCDの差込口に右磁気カードを差し入れて右CDを作動させ、加賀谷義雄管理にかかる現金合計五五万円を引き出してこれを窃取し

第三  同一六日午前一一時一五分ころ、同市中央区大通西二丁目五番地株式会社北陸銀行札幌支店において、同所に設置されている同支店支店長末川恒雄管理にかかるCDの差込口に前記磁気カードを差し入れて右CDを作動させ、末川恒雄管理にかかる現金合計四五万円を引き出してこれを窃取し

第四  同月二八日ころ、前記第二宅内課調整室において、第二宅内課で業務上使用しているクリーニングカードに前同様の方法で道銀亀田支店に普通預金口座を開設している前記番精二の口座番号等を印磁した上、同月二九日午後零時一〇分ころ、同市中央区南三条西六丁目三番地二グランドビル一階株式会社北海道銀行狸小路支店において、同所に設置されている同支店支店長佐藤譲治管理にかかるCDの差込口に右クリーニングカードを差し入れて右CDを作動させ、佐藤譲治管理にかかる現金合計一二万円を引き出してこれを窃取し

たものである。

(証拠の標目)《省略》

(弁護人の主張に対する判断)

一  公衆電気通信法一一二条とデータ通信との関係について

1  弁護人は、公衆電気通信法中データ通信に関する規定の立法、改正の経緯からみて、データ通信は公衆電気通信法一一二条所定の通信に当たらない、そう解さなければ、データ通信は電報電話のように公社が独占的に取扱っているものではないから、公社の取扱中のもののみが処罰されることとなり、それ以外の場合と権衡を失する、として同法違反の点につき被告人は無罪である旨主張する。

2  しかし、同法一一二条所定の通信がデータ通信をも包含するものであることは、同条及び同法第三章の四を含む同法全体の文理上明らかである。データ通信における通信の秘密の保護は電信電話のそれに比して勝るとも劣らず重要なものであり、同法を右のように解しても他の関係法令による規制もあり所論のように同法にいわゆる公社又は会社の取扱中以外の通信の秘密に対する侵害が直ちに不処罰となるわけのものではないから、右の解釈は、実質的にも格別不合理をきたすものではない。回線利用の自由化、データ通信の発展に伴いデータ通信等に関する総合立法の必要性が検討されるべきであるとしても、そのことは現行法についての右解釈のなんら妨げとなるものではない(なお、弁護人は、データ通信を巡る同法改正立法案の国会における審議過程において、参議院逓信委員会がすみやかに情報産業に関する総合的な基本法制を整備すべき旨の付帯決議をしていることを自らの主張に沿うものとして援用するもののごとくであるが、右付帯決議が何ら所論の趣旨を含むものではないことは、右付帯決議自体及び同委員会における審議経過上一見明白である)。弁護人の右主張は、全く独自の見解と言うほかなく、とうてい採用できない。

二  録音行為の違法性について

1  弁護人は、被告人の函館局第二宅内係長としての職務は、形式的には端末装置の保守・建設であったが、現実には被告人は、その従前の経歴やその技術的能力などから、回線を含むデータ通信システム全般について函館局における技術レベルの向上という広い職責を有していたものであり、本件録音は、被告人がそのような職責の一環として、データ通信の故障原因探索の端緒を視覚的に判定し得る測定器を開発する必要上行ったものであるから、正当な業務行為であって違法性が阻却され、仮にそこまでは言えないにせよ、少なくとも可罰的違法性を有しない旨主張する。

2  そこで検討するに、通信回線を流れる生データを録音することは、通信の秘密という憲法に基礎を置く重要な法益を侵害するものであるから、そのような通信の秘密の重要性を考えれば、交信中の生データを録音することは原則として許されず、仮にこれが許される場合があるとしても、単に一時的に通信音を聴くのとは異なる録音という行為の性質上、それは、本来の職務を遂行する上で、緊急かつ必要やむを得ない状況下において、通信の秘密に対する侵害が最小限度にとどまるよう慎重な配慮を施しつつ行われなければならないものと解される。

3  これを本件について見ると、判示認定に供した関係各証拠によれば、本件録音当時における被告人の職務は、公社の職務分掌規程上、函館局における「データ通信宅内設備関係の主管業務総括に関すること」すなわちデータ通信宅内装置の保守・建設などであったと認められるところ、前同証拠によれば、被告人が本件録音行為に及んだ動機・目的は、判示のような経緯から、故障原因探索のための測定器の開発とCD犯罪の防止策の研究という二つの点にあったものと認められるのであって、このような開発・研究のためにする生データの録音行為が被告人に課せられた右職務の範囲外のものであったことは明らかである。

更に、被告人が本件録音行為に及んだ具体的事情を見ても、被告人によれば、前記開発・研究のためには、まず道銀データ通信システムの伝送制御手順等を知る必要があると考えたというのであるが、《証拠省略》によれば、伝送制御手順等を知るためには生データを録音する必要はなかったこと、被告人は、必要な情報を入手するのに生データの録音以外の方法があるのかどうか検討することすらしないでいきなり生データを録音していること、被告人の前記開発・研究の構想は未だ極めて漠然としたものであって、そのために生データを録音しなければならない差し迫った具体的必要性は生じていなかったこと、本件録音に際し、被告人は、上司に相談したり、MDFの管理責任者に対し真の録音目的を説明してその了解を求めたりするなどの然るべき手順を全く踏んでいないこと、そして、被告人は、当時函館局で取扱われていたデータ通信の中でもとりわけ慎重に扱う必要度の高い金融機関のそれをかなり大量に録音したことがそれぞれ認められるのであって、以上の各事実に徴すれば、そこには、生データを録音しなければならない緊急性も必要性も認められず、通信の秘密に対する侵害が最小限度にとどまるよう配慮した形跡も全くないものと言わざるを得ない。

4  なお、弁護人は、被告人が北信協センターに勤務していた当時から、故障原因の探索等必要があれば随時生データの録音が行われており、被告人自らもこれを行ったことがあり、公社内において生データを録音すること自体が違法視されることはなかったと主張し、被告人もこれに沿う供述をしているが、《証拠省略》によれば、交信中の通信回線からその生データを録音することは、それ自体が故障原因になるおそれがあるとともに他人の秘密に触れることにもなるので一般に行われていなかったことが認められるのみならず、被告人自身が北信協センターで生データを録音し、それが結果的に黙認されるというようなことが仮にあったとしても、被告人の供述によれば、右録音行為はそれなりに職務とのつながりを持っていたもののようであり、本件録音行為とは場面を全く異にするものであって同列に論ずることはできず、いずれにせよ、そのような点が違法性に関する前記判断に消長を及ぼすものとは考えられない。

5  以上の次第であって、本件録音行為は、本来の職務を遂行するためではないのに、また緊急かつ必要やむを得ない状況が存在したわけでもないのに、通信の秘密に対する侵害が最小限度にとどまるような配慮を欠いたまま、被告人の独断で行われたものであって、いずれの側面から検討してみても、およそ許される余地のないものであり、正当な業務による行為などとして違法性が阻却されないのはもとより、いわゆる可罰的違法性を欠くものでないことも明らかである。この点に関する弁護人の主張は理由がない。

三  解読行為の違法性について

1  弁護人は、被告人が判示カセットテープに収録された信号音を再生解読したのは、CD犯罪の防止策を考えるにあたり、まずCDカードの仕組みを知り他人のCDカードを偽造することができるかどうかを知る必要があったからであり、当時被告人は札幌データ電信施設所施設部の主任技術員としてデータ通信宅内装置の試験プログラムの作成など端末装置全般にかかわる業務についており、現象的にはデータ通信システムの故障として現れるCD犯罪の防止策を研究することも職務に準ずる行為と評価されるべきであるから、本件解読行為も正当業務行為として違法性が阻却され、仮にそこまでは言えないにせよ、少なくとも可罰的違法性を有しない旨主張する。

2  しかしながら、判示認定に供した《証拠省略》によれば、被告人は、当時札幌データ電信施設所施設部の主任技術員として北海道電気通信局管内の端末装置に対する技術的支援業務を担当していたが、判示のような経緯からCD犯罪の防止策を考案し、これを銀行に売り込めば多額の報奨金が得られるのではないか、そのためにはまずCDカードを偽造し、これで銀行のCDから他人の預金を引き出せば、銀行も被告人のアイデアに真剣に耳を傾けるであろうと考え、先に違法に収録した判示カセットテープの信号音を再生解読するに至ったものであることが認められる。そうだとすれば、被告人の本件解読行為はとうていその職務に準ずるものとは言えず、正当業務行為として違法性が阻却される余地はなく、可罰的違法性を欠くものでないことも明らかである。弁護人のこの点に関する主張も理由がない。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は公衆電気通信法一一二条一項に、判示第二ないし第四の各所為はいずれも刑法二三五条に該当するので、判示第一の罪について所定刑中懲役刑を選択し、以上は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予し、押収してあるカセットテープ二巻は、それぞれ判示第一の犯罪行為に供したものであって犯人以外の者に属しないものと認められるから、同法一九条一項二号、二項本文によりこれらを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部被告人に負担させることとする。

(量刑の事情)

本件は、日本電信電話公社の職員であった被告人が、データ通信回線から北海道銀行オンラインの通信音を録音するとともに、その後これを解読してCDカードを偽造し、結局CDから合計一一二万円を引きおろして窃取したという事案であり、金融機関を狙った各種財産犯の中にあっても、素人離れした専門的な知識技術を駆使した犯行であるという点が極めて特徴的である。このような手口の犯行がひそかに横行するとあっては、今日広く社会に普及し既に必要不可欠のものとなりつつある現金自動支払制度が危殆に瀕することは必定であり、本件犯行がもたらした被害は決して現に窃取された金員の限度にとどまるものではなく、金融機関関係者やデータ通信関係者に極めて深刻な打撃を与え、また一般利用者に対しても少なからぬ不安感をもたらしたことは容易に推察し得るところであって、そのような犯行態様にかんがみ、本件は、はなはだ犯情悪質であると言うことができる。ところで、被告人が本件犯行を実行することができたのは、データ通信に関する知識技術を持ち合わせていたという点もさることながら、何と言っても被告人が電々公社職員としてデータ通信に関連する職務に従事していたため格別あやしまれることもなく生データを録音したり、その解読やCDカードの偽造に公社の機器を使用したりすることができたからであり、その意味において、本件は被告人がデータ通信業務の一端に携わる公社の職員であるが故に可能であった犯罪であり、被告人の行為は、データ通信利用者の公社に対する信頼と公社の被告人に対する信頼とをともに著しく裏切ったものであって、被告人は、公社職員でありながら、通信の秘密を守ることについての自覚をはなはだしく欠いていたものと言うほかなく、この点でも犯情は極めて芳しくない。また、被告人がCDから現金を窃取するに至るまでには、若干の紆余曲折があった様子は認められるが、現時点において被告人の行動を一連のものとして大きくとらえれば、データ通信の秘密を侵して得た情報を利用しCDから現金を窃取したという枠組みは動かし難いのであって、何ら弁解の余地のない犯行であると言わざるを得ない。今、本件犯行の経過を振り返って見るとき、被告人としては、事ここに至るまでには犯行を思いとどまるべき機会はいくらでもあった。すなわち、生データの録音、その解読、CDカードの偽造、それを使っての現金引出し実験、そして実際の現金窃取等どの段階一つをとってみても、多かれ少なかれ後ろめたさないし罪悪感を感ずることなしに実行することはできないものばかりであるのに、被告人は、その都度心理的抵抗を抑えて順次犯行を押し進め、結局次々と預金を引きおろして窃取し、更に、窃取した金員を直ちに使い始めていることなどを併せ考えると、その遵法精神は、著しく鈍麻していたものと考えざるを得ない。これらの事情にかんがみると、被告人の刑事責任は非常に重いと言わねばならない。

しかし、他方、本件においては被告人のために酌むべき事情も存在する。すなわち、本件一連の行為は、その外形的な経過を見る限りにおいては極めて危険な犯行であると言えるものの、被告人としては、当初からCDカードを偽造してCDから現金を窃取することを計画していたわけではなく、最終的に現金窃取の意思を固めたのは判示第二の犯行に出る直前ころであったと認められ、当初は、むしろ本件のような方法で本当にCDカードを作成することができるのかどうか、そのCDカードで本当に現金を引き出すことができるのかどうかといった技術的興味に主眼があったことがうかがわれるのであって、本件における刑の量定に当たっては、このようなやや特殊な具体的事情にも十分留意する必要がある。また、被告人は、高校卒業以来本件に至るまで長年にわたり公社職員として引き続き勤務し、その間格別の問題を起こしたことはなく、その仕事熱心なことは周囲の者も認めるところであったが、身から出た錆とはいえ、本件により、約二〇年間勤めた公社を懲戒免職されるに至り、加えて本件が広く世間に報道されたことなどから、既に相当厳しい社会的・経済的制裁を受けているものと認められる。そして、被告人には前科前歴は全くなく、再犯のおそれは低いものと考えられ、また、家庭にあっては、妻子が被告人を頼りに生活している実情にあることが明らかであり、また本件窃盗の被害は一応回復されていることが認められる。なお、被告人の当公判延における供述振りを見ると、自己に利益な事情を強調しようとするの余りか、やや行き過ぎと思われるような弁明的供述が多く、果たしてどの程度真摯に本件犯行につき反省しているのか若干心もとないと感じさせる点がないではないが、本件に現れた被告人の供述を全体として見れば、やはり反省悔悟の情に偽りはないものと考えられ、本件においては弁明的供述の多過ぎる点を被告人に大きく不利益な事情として評価するのは適当でない。

以上諸般の事情を総合すれば、本件犯行については、この際、被告人自身による更生を期待し、その刑の執行を猶予するのが相当であると判断する(求刑懲役二年六月)。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田元彦 裁判官 永井敏雄 裁判官浜秀樹は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 西田元彦)

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